チラックス研究所

チラックスを目指すブログ。ウィンブルドン、ランニング、外から見た日本、海外生活、書評などについて。

東京都民の必読書:女帝小池百合子

女帝 小池百合子

東京都民としてずっと読みたかった本がようやく読めました。

最近、フィクションよりノンフィクションの方が面白く感じます。

フィクションは純粋な娯楽としては良いのですが、無理な設定や展開が気になってしまいついついツッコミを入れてしまいがちに。

ノンフィクションは、そこに事実に裏打ちされたリアルな人間模様があり、歳をとったせいかもしれませんが、そういうものの方が興味深く思えるのです。生きていくために必要な教訓なんかも得られますね。

故・立花隆さんも著書の中で、昔はフィクションを読みまくっていたが、途中からノンフィクションの面白さにハマってノンフィクションばかり読むようになったというようなことを述べていました。

最近、その著書の中で勧められていた タイタニック号の最期 を読んでみたのですが、やっぱり面白いんですよね。ディカプリオ主演の有名な映画と比べると地味で、登場人物も多くてちょっとわかりづらく、淡々としているんですが、背後にある圧倒的な事実を感じることができました。

「女帝 小池百合子」も、著者が膨大な時間をかけて取材をし、資料を読み込み作り上げられた、クオリティの高いノンフィクションでした。

誰もが知る女性初の東京都知事・小池百合子のカイロ大学卒業、という学歴は限りなく黒に近いグレー、というか恐らく嘘です。著者はカイロ時代に小池と同居していた女性と接触することに小さな幸運から成功し、当時のメモ、手紙、またその女性の証言から小池のカイロ時代を検証しました。ここがこの本の一番の読みどころだと思います。

さて、学歴は(十中八九)詐称しましたが、小池百合子がその時期カイロにいたのはさすがに事実で、カイロ大卒、中東通というレアな立場を作り上げ、メディアに取り上げさせることに成功しました。リスクをとって賭けに勝ったのです。そして彼女の生い立ちから来るであろう権力への欲求に従い、階段を登り始めることに成功しました。

当時のメディアは嘘を見抜けず、または確認しようともせず、彼女に上手に利用されました。ファクトチェックという重要機能を果たしていないこと、彼女が権力者になってからは追及すらせずに忖度することなど、マスメディアの問題点については、最近読んだこちらの本が良かったです。

官報複合体

小池百合子のその後の活躍は周知の通りですが、ワールドビジネスサテライトのキャスターから政治家に転身した後も、細川護熙、小沢一郎、小泉純一郎と権力者の懐に上手に入り込み、大臣も経験し、都知事選の勝利へと繋がりました。

本書を読んで彼女の半生を振り返ると、決して恵まれたとは言えない子供時代の環境(小さな貿易商を営んでいた評判の悪い父、実家の破産など、「芦屋令嬢」と言われるがそれとはほど遠い彼女の生い立ち)から権力者へと成り上がった様は、まるで秀吉のように思えます。

一番のリスクテイクは学歴を詐称してメディアに出てきたとき。その後の生き方も機を見るに敏でした。

ある意味では、コロナ禍でさえも彼女の権力保持に対しては有利に働いたと考えられます。連日メディアに露出する姿を都民は嫌でも目にしていました。事実、2020年の都知事選は対抗馬もなく圧勝でした。

最近はさすがに体にきているのか、何度か入院というニュースも耳にします。目指していた女性初の総理も、年齢、体調面、自民党の一強というこの状況では難しいでしょうか。

本筋とは離れますが、本書は平成の政治史を一側面から振り返るという点でも有用でした。最近の自民党総裁選に出馬した高市早苗氏と野田聖子氏、元横浜市長の中田宏氏、自民党元幹事長の二階氏、国民民主党の玉木代表なども名前が出てきます。

都民なら、首長を知る一助として一読してみてはいかがでしょうか。

女帝 小池百合子