東京大学出版会による、「スポーツ栄養学」のエッセンスをまとめた硬派な本だ。東大での講義内容を抜粋したもので、栄養についての知識が科学的根拠に基づいて基本からしっかりと体系立てて整理されている。
アスリートやそのサポートをする人たちにとっては、この本で栄養について正しく理解することが、パフォーマンスの向上につながることを期待できる。
また、市民ランナーなどの一般のスポーツ愛好家、ダイエットに励む人などは、日常生活で忙しく、短い時間、少ない労力で効率的に成果を挙げたい人が多いだろう。その場合に、世間に溢れる怪しいノウハウを盲信するのではなく、本書などで一度じっくりと正しい理論を押さえた方が、遠回りに見えるかもしれないが結果的に早道になりうるだろう。
科学的根拠やメカニズムを大事にするその姿勢は、本の内容に高い信頼感を与えている。参照論文のリストも章末に付いていて、必要であればソースを辿ることもできる。
たとえば糖質制限食についてはこのように述べられている(太字は追加した)。
糖質制限食によって体重減少効果が得られることを支持する結果は、残念ながら得られていないようである[参照論文の番号]。今後、糖質制限食・低糖質食に関する研究はさらに増え、それによって結論が変わる可能性は否定できないものの、現時点においては糖質を制限するメリットは必ずしも大きくないのかもしれない。
著者が現役の研究者だけあり、科学的厳密さを損なわないこの慎重な書きっぷりが良い。
もちろん、糖質制限が減量に効果ありとする一般論には一応根拠があって、それは糖質摂取にともなう血糖値の上昇によって分泌されるインスリンが脂肪の合成を促すホルモンだから、というものだ(この辺も本の中では丁寧に説明されている)。世間ではこれを強調して「糖質オフ」「炭水化物制限ダイエット」などが流行っているが、糖質制限食が科学的厳密さを持って減量効果ありとは(まだ)言えないのだ。
この本では他にも、「なぜ食べ過ぎてしまうのか?」「エネルギーをためる脂肪と消費する脂肪の違い」「筋が肥大するメカニズム」などについても、細胞・分子レベルから詳しく解説している。糖質、たんぱく質、脂質といった三大栄養素から水分補給やサプリメントまで網羅されており、コラムでは最新の研究なども紹介されていてとても興味深い。
スポーツを専門でやっている学生、今まで我流だったがここら辺で理論を固めておきたいスポーツ愛好家、健康に気をつけたい一般人まで、1冊持っておいて損はないだろう。